戦国時代初期、七つの大国が覇権を争い、戦争が頻発していました。呉起が住んでいた衛国は比較的弱く、列強諸国の争奪対象となっていました。裕福な家庭に生まれながらも大きな野心を持っていた呉起は、分断され傷ついた祖国のために財産を使い果たし、四方を奔走して偉大な事業を成し遂げようと決意しました。しかし、名声を得ることはできず、財産を使い尽くした彼は故郷の人々から嘲笑されました。怒りに任せて衛国を離れ、魯国へ遊学に出かけました。
魯国で呉起は孔子の名弟子である曾参の門下で昼夜を問わず勉強し、国家統治の術を学びました。母が病気で亡くなった時、呉起はその知らせを聞いて天に向かって悲しみの声を上げましたが、すぐに涙を拭き取り、以前と同じように勉強を続けました。曾参は呉起が母の葬儀に出席しなかったことを忘恩の徒と見て師弟関係を絶ちました。呉起は状況を判断し、毅然として儒教を捨てて兵法を学ぶことにしました。三年間の修業を終えた後、宰相公儀体の推薦により魯穆公に大夫として任命されました。
紀元前410年、戦国七雄の一つである斉国が魯国を攻撃しました。魯穆公は呉起を将軍として任命し、二万の兵と共に斉国を迎え撃ちました。当時の斉国は強大で魯国は劣勢でしたが、呉起は巧みに戦略を用いて正面からの戦闘を避けました。斉国の将軍張丑が和平を装って実情を探るために魯軍の陣営を訪れたとき、呉起は精鋭部隊を隠し、老若男女や病人を残しておきました。そして張丑を盛大に歓待し、怯戦しているように見せかけました。欺かれた斉軍は魯軍を軽視し、軽率に攻撃を仕掛けました。呉起は敵の油断に乗じて部隊を再配置し、三方向から突然反撃を開始しました。斉軍は急な攻撃に対応できず敗走しました。この斉魯の戦いで呉起の卓越した軍事指揮能力が示されましたが、同時に斉国からの離間策と魯国の大臣たちからの誹謗中傷を招きました。魯穆公は誤った情報に惑わされ、呉起を罰しようとしたため、呉起は魯国での活動を諦め、賢才を求めている魏国へ移りました。
その頃、魏国では政治、経済、軍事などの各方面で改革運動が進められていました。魏文侯は才能を求め、呉起を大将軍に任命し、秦を討伐するために五つの都市を征服し、全西河地区（現在の陝西省大荔県以東）を支配下に置きました。その後、楽羊と共に中山国を滅ぼし、韓・趙連合軍とともに斉国を破りました。これにより呉起の軍事的能力は最大限に発揮され、魏国で27年間にわたり各国との戦闘76回を行い、うち64回勝利し、「四面に領土を広げ、千里の地を拓いた」と評されました。魏国は戦国七雄の中で最も強力な国となりました。呉起は長年の戦争を通じて豊富な経験を積み、「呉子兵法」48篇を著し、後世に貴重な軍事理論を遺しました。
呉起は傑出した軍事戦略家であるだけでなく、遠見卓識を持ち改革に勇敢に挑んだ政治家でもありました。魏国で西河守を務めていた際には、政治、経済、軍事などで重要な改革を実施し、目覚ましい成果を挙げ魏武侯の信頼を得ましたが、後に讒言により楚国へ逃れ、令尹として楚悼王の改革を助けました。「明法審令」、「無能な者を廃し、無用なものを除く」（『史記』孫子呉起列伝）、官僚機構の簡素化、人員削減、特権階級の廃止、経費節減、軍事力強化など一連の重大な改革措置を講じ、楚国は急速に強大になりました。「南は百越を平定し、北は陳と蔡を併合し、三晋を支配し、西は秦を討つ」（『史記』孫子呉起列伝）ことで八方を威圧し、天下に名を馳せました。
呉起の改革は奴隷主たちの利益を侵害し、権力者の反感を買いました。楚悼王の死後、呉起は旧貴族たちの非難を受け殺害されました。しかし彼の「呉子兵法」と政治改革の提唱は今日まで影響を与え続けています。