【出典】『戦国策・楚策四』
【意味】もともとは鼻を覆うことを指し、女性が嫉妬心から讒言(ざんげん)を用いて他人を陥れ害する一般的なたとえ。
【歴史逸話】
戦国時代、楚の懐王は酒色に溺れ、愛妾の鄭袖(ていしゅう)とともに遊宴に明け暮れ、堕落した生活を送っていた。その後、魏の君主は楚の懐王を媚びるために、また彼の闘志を弱めるために、絶世の美女を献上した。楚王はこの美女をたいへん寵愛した。
夫人の鄭袖は、楚王の気持ちに合わせて、新しく来た美女をとても気に入っているかのように振る舞った。彼女は美女のために衣類を買い与え、宮殿や寝具を整え、美女が自由に選べるようにした。その愛情の深さは、楚王をも超えているかのようだった。楚王は鄭袖が美女を嫉妬しないことを知り、彼女にたいへん感謝した。
そのとき、鄭袖は美女にこう言った。「大王はあなたの美しい顔立ちをとても気に入っていますが、鼻が好きではありません。これから大王に会うときは、手で自分の鼻を隠すようにしてください。」美女は鄭袖の言うとおりにした。楚王は、美女が自分に近づくたびに鼻を隠すのを見て、理由を鄭袖に尋ねた。鄭袖は曖昧に「わかりません」と答えた。楚王がしつこく尋ねると、鄭袖は「さきほど、この子が大王の体に臭いがあると言っていました。匂いを嗅ぐと気分が悪くなると。」と答えた。楚王はこれを聞いて激怒した。
翌日、楚王は鄭袖と美女を呼び、三人で一緒に座った。鄭袖はあらかじめ楚王の側近に「大王が今日、何か命令を出されたら、即座に実行しなさい」と言い含めておいた。三人が座った後、楚王が美女に近づくように命じると、美女はまた鼻を隠した。楚王は怒り心頭に発し、「この女の鼻を切り落とせ!」と命令した。こうして、鼻を失った美女は、もはや鄭袖と寵愛を争うことはできなくなった。
【成長への教訓】
昔から、君子はしばしば小人に敵わない。小人の卑劣な手段は尽きることがなく、君子は正事に忙殺され、小人と争う余裕がない。現実には誰の身の回りにも小人は存在するもので、このような人物に対しては常に警戒し、不器用に対処して不必要な被害を受けることのないようにしなければならない。小人にあまり近づくと、自分にとって負担になるし、無視すれば恨みを買う。その心の中に何を考えているのか、まったくわからない。だからこそ、適切な距離を保つことが最善の策である。そうすれば、表向きは丁寧に接しながら裏では悪事を働くような二枚舌の小人に傷つけられることもなく、人生に不要な波乱が生じることも防げるだろう。