リシナの家は海の近くにあり、村の人々は何代にもわたって漁業を生業としてきた。彼は幼い頃から父親と共に海に出かけ、まだ若いのにすでに父親の頼もしい助手となっていた。しかし最近、彼は仕事に身を入れず、狩猟に夢中になってしまい、もはや手の施しようがなく、このことで父親から何度も叱責されていた。
村から遠くないところに、険しく人里離れた小高い山があった。老人たちの話では、山にはよく野生のイノシシが出没するという。もしイノシシを一頭捕まえることができたら、どんなに素晴らしいだろう。山にいるイノシシのことが頭から離れず、彼は運試しに出かける決心をした。
その日の夜明け前、リシナは父親に内緒でこっそり起き、猟銃やロープなどの道具を携えて山へと登った。彼は丹念に探し回ったが、イノシシの姿すら見つけられなかった。太陽が高く昇り、父親は彼を待って出航しようとしていた。仕方なく、疲れきった体と落胆した気持ちを抱え、帰ることにした。山の中腹あたりまで来ると、遠くからかすかに弱々しい鳴き声が聞こえた。どうやらイノシシのようだ。彼はすぐに興奮し、音のする方へと急いだ。
案の定、小さなイノシシが泥沼に足を取られていた。もう疲れ果て、頭だけが泥の外に出ていただけで、身動きが取れず、逃げ出すこともできず、目には絶望が満ちていた。なんて不注意な奴だ、泥沼に落ちるとは。これは思いがけない収穫だ!リシナは喜びを抑えきれず、すぐに猟銃を構えてイノシシを狙った。
もちろんイノシシには、その黒い銃が自分に何を意味するのか理解できない。最後の力を振り絞ってもがき、目の前の見知らぬ男をじっと見つめ、目には興奮の光を浮かべていた。なんとリシナを救い主だと信じてしまったのだ。「俺に助けを求めているのか?」リシナは銃を構えたまま、ためらった。
なんて可哀想な子だろう!リシナはため息をつき、銃を下ろして、イノシシを救出する方法を考え始めた。
イノシシを助けるには、まず自分の安全を確保しなければならない。自分も泥沼に落ちれば大変なことになる。唯一の方法は、ロープでイノシシの首をくくり、引き上げることだ。彼はロープを投げ入れ、やっとのことで首にかけ、慎重に上に引き上げた。ロープがきつすぎると、救出される前に絞め殺してしまうかもしれない。だがイノシシは協力できず、かかったかと思うとまた滑り落ちた。何度も繰り返し努力した末、ついにイノシシを救い出した。気づけば、すでに2時間近くが過ぎていた。リシナは全身泥だらけで地面に座り、大きく息を吐きながら、これから父親の叱責をどうやり過ごすか考え始めた。
突然、遠くから轟音が響き、まるで天が崩れ、地が割れるかのような音だった。振り返ると、十数メートルもの高さの巨大な津波が海岸を襲い、天地を覆うように押し寄せてきた。山の下の村は、一瞬にして飲み込まれた。目の前で起きている光景を見て、リシナは恐怖に震え、体を小刻みに震わせた。
世界を震撼させたインド洋大津波の際、彼は村中で唯一の生存者となった。
これは実話である。リシナはインドネシア・スマトラ島のバンダアチェに住んでいた。本来彼は猟銃を持ってイノシシを狩りにいったが、イノシシを助けるために下山する時間を逃し、幸運にも壊滅的な災害を免れたのだ。果たして、人間が動物を救ったのか、それとも動物が人間を救ったのか。はっきりとは言えない。リシナが死なずにすんだのは偶然の一致だが、もし彼がイノシシを助けなかったら、この偶然は起こっただろうか?
幸運とは、愛の贈り物から始まるのだ。