戦国時代の有名な軍事家。生没年は不詳で、本名も失伝している。紀元前4世紀後半頃に活動し、斉国人（現在の山東省鄄城県）であり、呉国の将軍・孫武の末裔である。彼は若い頃、著名な仙人・鬼谷子のもとで、龐涓と共に学んだと言われている。龐涓は魏恵王の将軍となったが、孫臏の才能を妬み、彼を魏国へ騙し出し、「臏刑」（膝蓋骨を切除する刑罰）を科したため、「孫臏」と呼ばれるようになった。その後、斉国の使者によって密かに斉国へ連れ戻され、将軍の田忌の推薦により、斉威王から重用されて軍師となった。斉と魏の覇権争いで決定的な意味を持つ桂陵の戦いや馬陵の戦いにおいて、孫臏は斉軍を指揮して二度にわたり魏軍を破り、龐涓を自殺に追い込み、斉国を一強国たらしめた。彼は作戦において「実を避け虚を攻め」「敵が必ず救わねばならないところを攻撃する」という原則を用い、「魏を囲んで趙を救う」という有名な戦法を創出した。これは古来より兵家の模範とされている。孫臏およびその弟子たちが著した『孫臏兵法』は、孫武の軍事思想を継承し、戦国中期以前の戦争経験をまとめ、鮮明な時代特色を持ち、後世に貴重な軍事理論的遺産を残した。
魏恵王も秦孝公にならって、商鞅のような人材を探そうとした。彼は多額の金銭を投じて天下の英雄豪傑を招き寄せた。龐涓が謁見を申し入れ、富国強兵の道理を説いた。魏恵王は喜び、龐涓を大将に任命した。龐涓は確かに実力があり、日々兵を操練し、まず周辺の小さな国から手を付け、連続して勝利を収め、ついには斉国さえ打ち負かした。それ以来、魏恵王はさらに龐涓を信頼するようになった。龐涓自身も非凡な人物だと自負していた。しかし、彼は同級生で斉国人の孫臏が、自分の能力よりも優れていることを知っていた。孫臏は呉国の将軍・孫武の末裔であり、祖伝の『孫子兵法』を知っているのは彼だけだと言われていた。
魏恵王もまた孫臏の名声を聞き、あるとき龐涓に孫臏のことを話した。龐涓は人を遣わして孫臏を呼び寄せ、魏国で共に仕えるようにした。ところが、龐涓は悪意を持って、背後で魏恵王に孫臏が密かに斉国と通じていると讒言した。魏恵王は激怒し、孫臏を罪に問い、顔に墨字を刺し、両膝の膝蓋骨を抉り取った。幸いにも、斉国の使者が魏国を訪れており、こっそりと孫臏を救出しそのまま斉国へ連れ帰った。斉国の将軍・田忌は孫臏が優れた将才であると聞き、彼を斉威王に推薦した。斉威王も正に改革によって国力を強化しようとしていた。彼は孫臏と兵法について語り合った後、非常に感心し、もっと早く出会えなかったことを惜しんだ。
紀元前354年、魏恵王は龐涓を派遣して趙国を攻撃させ、趙国の都・邯鄲（現在の河北省邯鄲市西南）を包囲した。翌年、趙国は斉威王に救援を求めた。斉威王は孫臏を大将にしようとしたが、孫臏は慌てて辞退し、「いいえ。私は刑罰を受けた障害者です。大将となれば人々の笑いものになります。大王は田大夫を大将に任せてください」と言った。そこで斉威王は田忌を大将に、孫臏を軍師に任命し、趙国を救うために軍を発した。孫臏は天幕付きの車に乗って、田忌を助けて作戦を立てた。孫臏は田忌に言った。「今、魏国は精鋭部隊をすべて趙国攻撃に投入しており、国内は老弱病残が多く、非常に空虚です。我々はむしろ魏国の都・大梁を攻撃すべきです。龐涓がこれを聞けば、必ず邯鄲を放棄して帰還します。我々は途中で待ち伏せ、正面から痛打すれば、確実に彼を破るでしょう。」田忌はこの計略に従った。龐涓の軍隊は既に邯鄲を占領していたが、突如として斉国が大梁を攻撃しているという報せを聞くと、直ちに撤退を命じた。ちょうど桂陵（現在の河南省長垣市西北）の地に退却したところ、斉国の軍勢と遭遇した。両軍が交戦し、龐涓は大敗した。斉国の軍隊は勝利して凱旋し、邯鄲の包囲も解かれた。
紀元前341年、魏国は再び韓国を攻撃した。韓国も斉国に救援を求めた。その頃、斉威王はすでに亡くなっており、その息子の斉宣王が田忌と孫臏に軍を率いさせて韓国を救った。孫臏はまたいつもの手法を使い、韓国を直接救わず、魏国を直接攻撃した。龐涓は本国からの緊急報告を受け、やむなく軍を引き返さざるを得ず、すでに斉国の軍隊は魏国境内に入っていた。魏国は大量の兵力を動員し、太子申が率いて斉軍に対抗した。その頃、斉軍はすでに退却していた。龐涓が斉軍が野営した跡を調べると、陣地が非常に広いことに気づいた。彼は人数を数えて炊き場の竈を点検させたところ、十万人分の食事を賄えるほどあった。龐涓は驚きすぎて声も出なかった。翌日、龐涓は大軍を率いて斉軍が二度目に野営した地点に到着し、竈の数を数えると、五万人分しかなかった。三日目、彼らは斉軍が三度目に野営した地点まで追いかけて行き、よく数えると、二万人分しか残っていなかった。これでようやく龐涓は安心し、「私は初めから知っていました。斉の軍はみな臆病者です。十万の大軍が魏国に入ったばかりなのに、わずか三日のうちにほとんど逃げ散ってしまった」と笑った。彼は魏軍に、斉軍が通った道を一日も休まず追跡するよう命じた。ついに馬陵（現在の河北省大名県東南）にまで追いついた。ちょうど日が暮れようとする時だった。馬陵道は非常に狭く、道の両脇には障害物がたくさんあった。龐涓は斉軍を一気に追い越したい一心で、軍隊に暗闇の中でも前進するよう命じた。すると、突然先頭の兵士が戻ってきて、「前方の道が木で塞がれています！」と報告した。龐涓が前に出て見てみると、確かに道端の木はすべて切り倒されており、一番大きな一本だけが残されていた。よく見ると、その木の一面の樹皮が剥がされ、白い木肌が露わになっており、そこにぼんやりと大きな文字が書かれているが、薄暗くてよく見えない。龐涓は兵士に火を持ってくるよう命じた。何人かの兵士が松明に火を灯すと、その明かりでよく見ると、木肌には「龐涓死于此樹下（龐涓、この木の下にて死す）」と書かれていた。龐涓は大いに驚き、直ちに将兵に撤退を命じたが、もう遅かった。四方八方から無数の矢が蝗虫のように魏軍に向かって降り注いだ。瞬時に馬陵道の両側は喊声で満ち、至る所に斉国の兵士が現れた。実はこれが孫臏の仕組んだ計略であった。彼は故意に毎日竈の数を減らし、龐涓を追ってくるように誘い込んだのだ。彼は魏軍がこの時間に馬陵に到達することを予測し、あらかじめ弓兵を多数伏兵させ、「木の下に火の光が見えたら、全員一斉に射よ」と命じておいた。龐涓は窮地に陥り、剣を抜いて自害した。斉軍は勝ちに乗じて魏軍を大破し、魏国の太子申も捕虜にしてしまった。
この出来事以降、孫臏の名は諸侯国中に広く知れ渡った。彼が著した『孫臏兵法』は、おそらく後漢末期にはすでに失われてしまった。