小さな物語が歴史を変えた
1941年の冬のことだった。
その年、第二次世界大戦の戦火が熾烈に燃え上がっていた。世界中が血を流し、苦しみ、呻き、もがいていた。
その年の冬はことのほか寒かった。1941年12月、水滴がたちまち凍りつく季節だった。アメリカ首都ワシントンの街中には厚い積雪が広がり、凍った路面は歩くと非常に滑った。クリスマスが近づいていたが、どこにもクリスマスらしさは感じられず、人々はみな忙しそうに通り過ぎていった。
夜も更け、アメリカの原子爆弾の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマーは、人気のない通りを一人ぼんやりとさまよっていた。どこへ行こうか、何をしようか、見当もつかなかった。家に帰りたくなかった。家は温かく、愛する妻が待っているのに。
彼はルーズベルト大統領にどう向き合えばいいのか、本当にわからなかった。大統領に原子爆弾とは何か、原子とは何か、原子核とは何か、核分裂とは何かを説明しようと、彼はもう手の限り尽くしていた。この偉大な大統領は、核物理学についての知識がゼロだったのだ。